「外部性」とは?なぜ人々は集団で暮らすのか?高いコストを払って都会に住むことのメリット

先日、こちらの本を読みました。

【読んだ本】東京に住むならどこ?必読!『東京どこに住む?-住所格差と人生格差』速水健朗
東京どこに住む? 住所格差と人生格差 (朝日新書) 速水健朗 朝日新聞出版 2016-05-13 ...read more

とても面白い本でした。

本書では統計的なデータから、東京23区内における近年の人々の移動の動向を明らかにしました。かつては「西高東低」とも言われ、東京の東部に比べ、西の地域の方が人気が高いことが一般的でしたが、住む地域に対する人々の嗜好は変化してきており、ここ数年は都心の、それも皇居から5キロ圏内の東京ど真ん中と言える区域に人気が集まっているそうです。また実際にその地域への転入者の増加が著しいことが本書のデータからも明らかにされています。

ではなぜ、人々は東京の真ん中に集まるようになってきたのでしょうか?東京23区中部はとても家賃が高く、生計費もかなり割高になる傾向があります。それでも、人々は魅力を見いだし集まっているのです。

その理由をするどい視点で明らかにしようと試みたのが本書の特色でした。

Contents -目次-

『外部性』とは?

さて、本書の中で、個人的に特に興味深かったのが「外部性」という考え方でした。

そもそも根源的な疑問ですが、人はなぜ集まって暮らすのでしょうか?都会で暮らすということは、基本的にコストが高くなるということです。家賃は高いし、環境は悪いし、物価も高くなります。都心を離れれば、家賃も安くなり、環境も良くなり、物価も安くなるのにどうしてなのか。よく考えてみれば不思議ではあります。

その問いに関して、本書では「正の外部性」がそこに存在するから、と簡潔に答えが提示してあって、そういうことか!と素直に納得がいきました。
高コストの都心に近年特に人が増えている現象に対して、本書では様々な仮説や事例を挙げて解明を試みていますが、そもそも、人が集団で集まって暮らすのはどうしてなのか?という問いも根源的で面白いですよね。

少し話は逸れますが、私は経済学のテキストを読むのが好きで、中でもマンキュー先生の教科書はお気に入りです。経済学の様々なアイデアの、もっとも大事な概念の部分を理解できるように作られており、苦手な数字もあまり出てこず!とても素晴らしい本です。
どのトピックも面白すぎて、とてもエキサイティング。まあ私は所詮、素人経済学ですが、それでも教養として知っておいて誰しも損はない素晴らしいトピックばかりなのです。


マンキュー入門経済学 (第2版)
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そして「外部性」、これは経済学の用語です。

マンキュー経済学のテキストの中では『市場の失敗』というトピックが出てきます。
そしてその市場の失敗をもたらす要素の一つとして、「外部性」という考え方が登場します。

『東京どこに住む?-住所格差と人生格差』で説明される、そもそも人々が集まって都会に住むことの、正の外部性をさらに深く理解するには、「神の見えざる手」というたとえで知られる「市場」というものの優れたメカニズムを知っておくとより良いかもしれません。

「市場経済」の優れている点についてはこちらをご覧ください
https://motet.co/capitalism-market-equality-or-inequality/

そしてその素晴らしい「市場経済」がうまくいかず、非効率になってしまうケースの一つとして外部性、特に負の外部性はしばしば例に出されます。

せっかくなので、以下は外部性について自分のメモ用にまとめてみました。

「外部性」の定義

市場は、公平さと効率性をもたらす最良の方策とされています。
そんな市場がうまく機能しないケースがいくつかあり、その一つが外部性。

「外部性」の定義は
『ある人の行動が周囲の人の経済的行動に金銭の補償なく影響を及ぼすこと』
となります。

そして外部性には「負の外部性」と「正の外部性」の二種類が存在します。

負の外部性の例

負の外部性の有名な例では、「公害」があげられます。

例えば、ある化学工場があったとします。その工場は当然、利益の追求のために工場を操業し、その結果、汚染された排水が河川に流されることになります。

この時仮に、排水基準などが存在せず、化学工場の製品の市場の買い手と売り手が自分たちの排水による環境汚染の影響を無視してしまう形で、市場のメカニズムだけに従って需要/供給量を決めてしまったらどうなってしまうでしょうか。

市場はそのメカニズムにより、効率を達成するため、需要されるだけの量を最大限供給することになります。その際発生する汚染水が大変有害な物質を含むものであった場合、社会への影響は甚大なものとなります。しかし、化学工場の製品の市場がたとえ効率的であっても、市場には外部の影響は反映されることはありません。

市場は、需要と供給のメカニズム、そのもう一つの見方である費用と便益が正しく均衡することによって、その経済全体の取り分、パイを最大化することができます。

ところがこの化学工場の例のような場合には、市場が真の費用、社会的な損失を反映することができないため、市場の効率を追求するほど損失が発生してしまい非効率となってしまうのです。このような例を「負の外部性」と呼び、通常は経済を最も効率的な状態に導く市場がうまく機能しないケースとしてよく知られています。

またこの例のように現実に、水俣病や五日市ぜんそくなどの公害問題によって、負の外部性は大きな被害をもたらしたことがありました。この「負の外部性」を解決するためには「外部性の内部化」という考え方と、実際の政策が必要となります。負の外部性の内部化のためには、課税※1と規制※2の二つの方策があります。

  1. 規制の場合は、河川に排出しても良い汚染物質の量を、社会に影響がない程度におさめる義務を工場に課す一定の排水基準を国が設けることによって、外部性の内部化が行われます。企業は、排水をきれいにするためのコストを負担することになり、市場はそのコストを反映した適正な価格と需要/供給量を達成することが可能となります。
  2. 課税の場合は、例えば「有害物質1kgの排出にあたり、〜円の税金を課す」などと定めます。こうすることで、コストを抑えたい企業は汚染物質の排水を減らすことにインセンティブをもつことになり汚染が削減されます。またこの方策は外部性による社会へのコストを減らす方策としては、規制よりすぐれているものだと考えられています。規制であれば、その基準を達成すればそれ以上の努力はなされなくなる可能性が高いですが、課税であれば負の外部性をもたらす要因を減らせば減らすほど、企業はコスト削減になるので効果は大きいのです。また国としては税収にもつながります。

正の外部性の例

もう一方の正の外部性はどうでしょうか。『東京どこに住む?-住所格差と人生格差』では、高いコストを払っても都心に住む人々が増えているのは、この「正の外部性」の恩恵を人々が見出しているからと説明されています。正の外部性の一般的な例としては、教育や技術の開発などが知られています。

「教育」というサービスの市場を考えてみます。

人々は学費など教育への費用を払い、教育を受けたことによる価値、つまり高賃金という形で恩恵を受け取ります。基本的には、教育というサービスを需要し、消費した人は市場の内部でこのように恩恵を受けます。

しかし、教育を受けた人が教育を受けたことによる高い生産性によって、社会にも大きな貢献をし、多くの人々にも恩恵を与えることになると、そのプラスの影響は市場にうまく反映されません。従って教育というサービスの需要者(消費者)にそのプラスの影響を正しく反映する必要があります。

負の外部性の場合は、市場の外部で社会に与える負のコストを、内部化して市場に適切に反映する必要がありましたが、同じように正の外部性も、市場の外部で社会に与える正のメリットを教育市場にきちんと反映する必要があります。でないと市場が非効率になってしまいます。

この場合の正の外部性の内部化は補助金などの、財・サービスを消費する、あるいは供給するためのコストを下げることで達成されます。

教育の場合であれば、公教育や奨学金などがそれに当たります。

また、技術の開発も正の外部性として挙げられます。

企業がコストをかけて開発した、革新的な技術の恩恵は、その企業が利益を上げることのみにとどまらず人々にも大きなメリットをもたらします。

企業は利益を上げるために開発をしますが、公害や環境汚染のちょうど逆で、その市場の効率の追求の結果が市場の外部に良い影響をもたらします。

外部性が存在すると市場が非効率になってしまうため、この場合は、税金の逆で開発援助のような形で、補助金を出したりして市場の均衡を適切な生産量に持っていきます。

またせっかく開発した技術もすぐに他社に取り入れられるような環境では、その開発をした企業が適切な利益を確保できなくなってしまいます。それでは開発のためのインセンティブも生まれにくくなってしまうことも考えられます。そのために、特許などの知的財産の管理も重要となります。

高いコストを払っても、都会に住むことの正の外部性とはどういうことか

さて、以上の「外部性」を踏まえて改めて『高いコストを払って都会に住むことの正の外部性』というものを考えてみると、外部性というものがより理解できます。

都市では様々な経済活動が行われています。それぞれの経済活動は自身の利益を目指して行われています。住民たちはその活発な経済活動が行われている都市のコストを負担しているわけではないですが、都会に住むことによって、その都市の正の外部性の恩恵を受けることができます。

具体的な「正の外部性」の内容については是非『東京どこに住む?-住所格差と人生格差』を読んでいただくと良いと思いますが、都心に住むことの大きなメリットを正の外部性と考えることは個人的には理解がしやすく面白かったです。

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